うつの症状そのものよりも、私が長く悩んだのは「これを会社にどう伝えるか」でした。
検索すると「まずは上司に相談を」と書かれています。それはその通りなのですが、実際にその一言を切り出すまでには、いくつもの心配ごとを越えなければいけません。ここでは、私が何に悩み、最終的にどう伝えたかを書きます。
※これは一人の当事者の体験談です。会社の制度や職場の事情は一人ひとり違うので、そのまま当てはまるものではありません。
切り出せなかった理由
伝えられずにいた理由は、大きく4つありました。
1つ目は、評価が下がることへの不安です。「メンタルが弱い人」という見方をされたら、この先の仕事はどうなるのか。異動や査定に響くのではないか。
2つ目は、迷惑をかけることへの申し訳なさです。自分が抜けたら、その分は誰かが背負うことになります。ただでさえ忙しい人たちに、さらに負担をかけると思うと、言い出せませんでした。
3つ目は、「大げさだと思われるのでは」という怖さです。検査で異常が出ているわけでもない。骨が折れているわけでもない。休むほどのことなのか、と自分でも思っていました。
4つ目は、生活のことです。休んだら給料はどうなるのか。ローンや家賃は。家族に何と言えばいいのか。制度を知らないうちは、この不安が一番大きかったです。
先に整理しておいてよかったこと
結果的に、伝える前に調べておいてよかったと思うことが2つあります。
ひとつは、会社の就業規則です。休職の制度があるのか、期間はどれくらいか、その間の給与はどうなるのか。就業規則は本来、従業員が見られる状態になっているはずのものです。
もうひとつは、傷病手当金の存在です。病気やけがで働けない期間について、健康保険から生活を支えるお金が支給される仕組みがあります。制度の細かい要件は職場や加入している健康保険によって違いますが、「休んだら収入がゼロになる」わけではないと知れただけで、切り出すハードルはかなり下がりました。
この2つを知らずに相談していたら、私はもっと不利な形で話を進めていたと思います。
医師の診断書があると、話が変わる
私の場合、上司に伝えたのは、医療機関を受診して診断書を書いてもらったあとでした。
これは結果的に大きかったです。診断書があると、話が「調子が悪い気がします」という主観の話ではなく、「医師がこう判断しています」という客観的な話になります。
上司の側から見ても同じで、部下から「しんどいので休みたい」と言われても、どう扱っていいか分からない。でも診断書があれば、人事に相談して所定の手続きを進めるという道筋が見えます。相手を困らせないためにも、書面があるほうがよかったと感じています。
受診の順番としては、「先に上司に相談してから病院へ」でも「先に病院へ行ってから相談」でも構わないと思います。ただ、休職を視野に入れているなら、医師の判断を先に得ておくと話が早いのは確かでした。
実際に伝えたときのこと
伝えるときに意識したのは、次の3つです。
- 体調の話に絞る(誰が悪い、何が原因という話に踏み込まない)
- 希望ではなく、医師の判断として伝える
- この先どうしたいかは、その場で決めない
特に2つ目は大事だったと思います。「休みたいです」と言うと、それは交渉になります。「医師から休養が必要と言われました」と言うと、事実の共有になります。同じことを伝えていても、相手の受け止め方がまったく違いました。
1つ目については、正直に言えば、原因だと感じている出来事はありました。それでも、最初の場ではそこに触れないようにしました。原因の話を始めると、どうしても感情的になりますし、話が「事実確認」の方向に流れて、肝心の体調の話が後回しになってしまうからです。
伝える場所は、周囲に人がいない場所を選びました。オンラインでも構わないと思います。大事なのは、途中で人が通らないことでした。
伝えたあとに起きたこと
正直に書くと、すべてがうまくいったわけではありません。
理解を示してくれる人もいれば、そうでない人もいます。表向きは「ゆっくり休んで」と言われても、雰囲気として伝わってくるものはあります。
ただ、伝える前に想像していた最悪の展開は、起きませんでした。私が頭の中で膨らませていた不安のうち、実際に起きたのはごく一部です。これは、あとから振り返って強く思うことです。
そしてもう一つ、伝えたことで確実に減ったものがあります。「いつバレるか」という緊張です。体調を隠しながら働いている間、私は常に、平気なふりをするためにエネルギーを使っていました。伝えたあとは、少なくともその分は使わなくてよくなりました。
いま同じ状況にいる方へ
もし今、伝えられずに抱えている方がいたら、順番として次のことをおすすめしたいです。
- まず医療機関を受診して、専門家の判断をもらう
- 会社の就業規則で休職制度と期間を確認する
- 傷病手当金など、収入を支える制度の仕組みを知っておく
- そのうえで、体調の事実だけを上司に伝える
上司に言いづらい場合は、人事や産業医、社外の相談窓口という選択肢もあります。窓口は一つではありません。
私自身、「もう少し早く言えばよかった」と今でも思っています。限界まで我慢して伝えた結果、回復にかかる時間はその分だけ延びました。早く伝えることは、逃げではなく、戻るための最短距離だったのだと思います。
伝えたあとに決めておくこと
「休みます」と伝えて終わりではなく、そのあとにいくつか決めることがあります。体調が悪い時期にまとめて考えるのは大変なので、項目だけでも挙げておきます。
- 診断書の提出先と方法(人事宛か上司宛か、郵送でよいか)
- 休職の開始日と、いったんの期間
- 休職中の連絡方法(誰が、どの手段で、どれくらいの頻度で)
- 担当業務の引き継ぎをどこまで自分でやるか
- 社内のどの範囲まで事情を共有するか
- 給与・社会保険料の取り扱いと、傷病手当金の手続きの窓口
私が特に大事だと感じたのは、3つ目の連絡方法です。ここを決めずに休むと、いつ電話が来るか分からない状態が続きます。着信音が鳴るたびに緊張する日々は、療養にはなりませんでした。
4つ目の引き継ぎについては、無理をしないことをおすすめします。責任感から「せめて引き継ぎだけは完璧に」と考えがちですが、その作業自体がかなりの負荷です。最低限の情報だけ渡して、あとは会社に委ねてよいと思います。
5つ目の共有範囲も、先に伝えておいたほうがいい項目です。「体調不良で休むとだけ伝えてほしい」と希望を出すことはできます。何も言わないと、どこまで話が広がるか分かりません。
伝える相手は、上司だけではない
上司との関係がすでに悪い場合や、上司自身が負担の原因になっている場合もあります。その場合、無理に上司から始める必要はありません。
- 人事・総務の担当者
- 産業医、保健師、健康管理室
- 社内のハラスメント相談窓口
- 加入している労働組合
- 外部の相談窓口(各都道府県の労働局、総合労働相談コーナーなど)
産業医は、従業員の健康について中立の立場で関わる立場にあります。会社に何をどこまで伝えるかについても相談できるので、上司に言いにくい事情がある場合の入口として使えます。
私自身、社外の相談先に話を聞いてもらったことがあります。利害関係のない相手に状況を説明すると、自分が何に困っているのかが整理されました。社内で完結させなければいけない、というルールはありません。
※この記事は個人の体験に基づくものであり、医学的・法的なアドバイスではありません。制度の内容は会社や加入する健康保険によって異なります。判断に迷うときは、主治医・産業医・人事などにご相談ください。

