うつ病で休むことになったとき、症状の次に重くのしかかってきたのが、お金の不安でした。
収入が止まる。でも家賃や住宅ローン、光熱費、食費は変わらず出ていく。子どもの費用もある。「このままだと何か月もつのか」という計算が、頭から離れなくなります。
そして厄介なことに、この不安そのものが体調を悪くします。眠れなくなり、休養にならない。ここでは、私がその時期に何を考え、実際に何をしたかを書きます。
※これは一人の当事者の体験談です。制度の要件や金額は状況によって異なります。正確な内容は各窓口にご確認ください。また、私は金融や税務の専門家ではありません。
まず、出ていくお金を把握した
最初にやったのは、収入の心配ではなく、支出の把握でした。
不安が大きいときは、「いくら必要か」が分かっていないことが多いです。分からないまま心配していると、不安は無限に膨らみます。
やったのは単純なことで、毎月必ず出ていくものを書き出しただけです。
- 住居費
- 水道光熱費・通信費
- 食費
- 保険料
- 子どもにかかる費用
- 税金・社会保険料
- ローンやサブスクなどの固定費
書き出してみると、思っていたより多い項目と、思っていたより少ない項目の両方がありました。そして何より、「毎月これだけあれば生きていける」という数字がはっきりしました。
この数字が出ると、次に「今の貯蓄で何か月もつか」が計算できます。答えが厳しくても、分からないまま怯えているよりはずっとよかったです。
収入を支える制度を確認した
次に、使える制度を確認しました。
私の場合、中心になったのは傷病手当金です。病気やけがで働けない期間について、健康保険から支給される仕組みで、支給期間は支給開始日から通算して1年6か月とされています。
出典:[厚生労働省「傷病手当金の支給期間の通算化について」](https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22308.html)(令和4年1月1日施行)
ただし、申請してから入金までには時間がかかります。私は最初、この点を甘く見ていました。申請書を出せばすぐ振り込まれるものだと思っていたのですが、実際には書類が本人・医師・会社の三者を回るため、最初の入金までかなり待つことになります。
ですから、「制度があるから大丈夫」ではなく、「最初の数か月は自力で乗り切る必要がある」という前提で考えたほうが安全でした。
医療費の負担を軽くする制度も使った
通院と服薬が続くと、医療費もじわじわ効いてきます。
精神科・心療内科への通院を継続的に受ける場合、自立支援医療(精神通院医療)という制度があります。申請が認められると、対象となる医療費の自己負担が軽くなる仕組みです。申請の窓口は、お住まいの市区町村になります。
私も申請しました。手続きには医師の診断書などが必要になるため、通院時に相談するとスムーズです。有効期間があり、更新の手続きが必要になる点も、あわせて確認しておくとよいと思います。
医療費が高額になった月については、高額療養費制度という仕組みもあります。制度の詳細は、以前の記事にまとめています。
見落としていた「あとから来る」支出
これが、私が一番戸惑った部分です。
収入が止まっても、税金や社会保険料は自動的にはゼロになりません。
とくに住民税は、前年の所得に対してかかります。つまり、働いていた年の分が、休んでいる年に請求されます。給与から天引きされていたものが、退職などによって自分で納める形に切り替わると、まとまった金額の納付書が届くことになります。
私自身、会社に渡していた住民税関係の書類が返ってきて、自分で納める形になっているのかどうか分からず、確認に時間がかかりました。
健康保険も同様です。退職すると、任意継続、国民健康保険、家族の扶養に入るなど、どの形を選ぶかによって負担額が変わります。年金についても、保険料の免除や納付猶予の制度があります。
これらは窓口がばらばらです。住民税は市区町村、健康保険は保険者や市区町村、年金は年金事務所。体調が悪い時期に自分で回すのは大変なので、体調のいい日に一つずつ、が現実的でした。
実際にやってよかったこと
振り返って、やってよかったと思うことを挙げます。
- 固定費を一度だけ本気で見直した(使っていないサブスク、保険の内容など)
- 支払い時期をカレンダーに書き出した(いつ、いくら出ていくかを見える化)
- 家族と数字を共有した(一人で抱えると判断が偏る)
- 分からないことは窓口に電話して聞いた(調べるより早いことが多い)
とくに4つ目は、もっと早くやればよかったです。ネットで調べても、自分のケースに当てはまるかどうかは分かりません。市区町村の窓口や保険者に直接聞くほうが、結果的に短時間で正確な答えが得られました。
電話をかけるのすらしんどい時期でしたが、「これは今日じゅうにやる」と一つだけ決めてかけるようにしていました。
やらなくてよかったこと
逆に、やらなくてよかったと思うこともあります。
ひとつは、収入を取り戻そうとして焦って動くことです。この時期は、短期間で稼げるという話が魅力的に見えます。ただ、判断力が落ちている時期に金銭的な決断をするのは危険でした。
もうひとつは、将来の家計を細かくシミュレーションしすぎることです。半年先、1年先まで細かく計算すると、たいてい暗い結論が出ます。そして、その計算は前提が変わればすぐに崩れます。私は「3か月先まで」に区切ることにして、それより先は考えないようにしました。
お金の不安と、体調の関係
最後に書いておきたいのは、お金の不安と体調は、はっきりつながっているということです。
お金の見通しが立たないと、休んでいても休まりません。逆に、「最低限これだけあれば数か月は大丈夫」と分かるだけで、眠れる日が増えました。
だから、家計の把握や制度の確認は、単なる事務作業ではなく、療養の一部だったと今では思っています。
体調が悪くて何も手につかないときは、無理にやる必要はありません。ただ、少し動ける日が来たら、まずは「毎月いくら必要か」を書き出すところから始めてみてください。私の場合は、そこが出発点でした。
公的な相談窓口を知っておく
お金の問題は、一人で抱えると視野が狭くなります。無料で相談できる公的な窓口があることは、知っておいて損はありません。
- 市区町村の福祉担当窓口(生活の困りごと全般の相談ができます)
- 自立相談支援機関(生活困窮者自立支援制度に基づく相談窓口)
- 社会福祉協議会(生活福祉資金の貸付制度などの相談)
- 年金事務所(保険料の免除・納付猶予の相談)
- 法テラス(債務の問題など、法的な困りごとの相談)
私自身、こうした窓口があることを最初は知りませんでした。「まだそこまでではない」と思っているうちに、選択肢が狭まっていくのがこの問題の怖いところです。
相談することにためらいを感じるかもしれませんが、これらは制度として用意されているものです。使うことに引け目を感じる必要はありません。
家族と数字を共有するときのこと
最後に、家計の話を家族とどう共有したかを書いておきます。
私は最初、心配をかけたくなくて数字を一人で抱えていました。でも、抱えていること自体が伝わって、かえって不安を大きくしていたようです。
共有するときに意識したのは、「悪い数字も含めて全部出す」ことでした。都合の悪い部分を隠すと、あとで前提が崩れます。
そして、共有したあとは判断が楽になりました。何にお金を使うか、どこを削るかを一人で決めなくてよくなったからです。この病気は判断力そのものを鈍らせるので、判断を分担できたことの意味は大きかったです。
※この記事は個人の体験に基づくもので、金融・税務・法務の助言ではありません。制度の要件や金額は個々の状況によって異なります。詳細は、加入している健康保険、お住まいの市区町村、年金事務所などの窓口にご確認ください。

